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ジャパニーズ・アートおそるべし
海の見える部屋とSabi Inspiration
サラリーマン時代に大変お世話になった方のアート作品展(Sabi Inspiration)に行ってきました。
その日は最終日ということで、代官山の小さなギャラリーは来場者でとても賑わっていました。
作家の池辺敬さんは、高島屋工作所(現在の高島屋スペースクリエイツ)でインテリアデザイナーとして活躍された後、高級分譲マンションのアートディレクター兼クリエイターとして空間造りに携わってこられました。現在は独立されて自らの工房でアート作品を制作されております。
私がデベロッパーに在籍していた時代には、いくつものプロジェクトでお世話になりました。池辺さんの作品には派手な演出こそありませんが、奥深く説得力のある空間表現にはいつも感服させられてきました。美意識の高い富裕層の方々にもファンが多く、制作された作品はいつも世間に出る前に嫁ぎ先が決まっているような状態です。池辺さんの作品を待たれる方々からの強い要望もあり、今回の初作品展となったようです。
作風はいたってシンプル。
風化した土壁や、錆びて朽ちてゆく鉄扉を思わせる素朴で独特な風合いです。池辺さんらしさと言いますか、奇をてらったところは何もありません。
気になる制作過程ですが、まず紙紐を少しほぐしてからキャンバスに貼り付けて立体感を出します。石膏を幾度も重ね、マットな質感のベースが完成です。石膏が落ち着いたらその上から特殊な塗料を塗布します。人工的に錆(さび)を作り出す特殊な塗料なのですが、この塗料こそがこの作風を決定づける最も重要なポイントになっています。
うまい具合に錆の風合いが出てきたら、その上にまた石膏を重ねていきます。石膏が乾いたら削り、また塗料を塗って錆を出し、石膏を塗ってはまた削り、という作業を何度も何度も繰り返します。どこか油彩の工程に似ていますが、そうすることで、素朴でありながらも複雑で深みのある風合いが醸成されていきます。
最終日の、しかも閉館間際になって一組の外国人家族が現れました。
ベビーカーを揺らしながらご主人と奥さんが何やら話しています。すると、長身で澄んだ碧眼のご主人がしなやかな身のこなしで入ってくるやいなや館内をさっと一巡。ある作品の前で立ち止まりました。
何とひと目見るなりとても気に入ったようで、今夜の飛行機でニュージーランドに帰国するからすぐに梱包してほしいとのこと。
梱包作業を待つ間、ご主人が一枚の写真を見せてくれました。彼の自宅の目の前に広がるプライベートビーチ、そして素晴らしいサンセット。
彼はこのアートパネルを見た瞬間、海の見える自宅リビングルームに飾られた情景がパアーッとリアルに浮かんできたのだそうです。
IKEBE作品おそるべし、通りすがりの外国人観光客をも一発で魅了。
満足げに手を振りながら去ってゆくご家族を見送りながら、ジャパニーズアートの可能性を再認識することになりました。
弊社のオフィスにもIKEBEアートのコレクションが何点か飾ってあります。お越しの際は、ぜひ近くでその風合いを感じてみていただけたらと思います。