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不動産投資、その失敗のメカニズム
収益還元法への過度の依存とは
不動産投資はミドルリスク投資であると言われています。不動産価格は景気の変動によって上下しますので、当然ですが元本の保証はありません。賃料や空室率についても同様です。一方で不動産投資の世界においては、先人投資家たちによってすでに様々な投資理論が確立されてきております。事前の市場予測と物件の個別要因の分析を行うことで、ある程度まではリスクを管理することができるはずです。
ところが当社が売却依頼を受ける物件の中には、明らかに不動産投資の失敗が原因と考えられるものが少なくありません。例えば管財人弁護士を窓口とする破産案件、あるいはサービサーを窓口とする任意売却案件といったケースです。これらの物件に共通するのは、収益性が極端に落ちて債権額が市場価格を大きく上回っている点です。
不動産投資の失敗メカニズム
「債権額が市場価格を大きく上回る」とは、過度の融資依存が原因で物件が本来もっている実力以上の融資が実行されているということを意味します。積算価格ではせいぜい2億円程度の評価の物件に対して、2億5000万円くらい貸し付けられているケースはザラにあります。どうしてこんなことが起こるのでしょうか?それは一言で言うならば、机上の収益還元法に依存し過ぎた結果であるといえます。不動産本来の客観的価値を置き去りにし、甘い賃料査定と支出予想に基づいた楽観的収支をベースにして強引に銀行内の稟議を通しているのです。その結果、実際に運用を開始してみると長期間に渡って高い空室率が続いたり、予定よりも低い賃料収入しか得られないという現実が待っています。
それだけではありません。いったん空室率上昇・賃料下落というサイクルに入ると、テナントが退去するたびに募集のためのコストが発生します。まだ使えるはずの内装にもかかわらず募集する際の表面的スペックを上げるために内装リフォームをせざるを得なかったり、少ない見込み客を優先的に紹介してもらうために仲介業者に広告料を数ヶ月分支払うことになったりするわけです。当然ですがこういったコストは投資家にとって想定外のコストです。しかもコストをかけたからといって、楽観的に想定していた賃料が取れるわけではありません。甘い賃料査定は遅かれ早かれ下方修正が必要となってきます。テナントが退去して空室が増えるたびにズブズブと負のスパイラルにはまっていき、ついには金融機関への元本・金利の返済ができなくなり破綻してしまいます。
融資をする側と融資を受ける側の論理
これから不動産投資を始めようとお考えの方は、まず最初に投資用不動産の価格は、良くも悪くも融資する側の都合で形成されるということをご理解ください。いったん水道の蛇口が弛んで貸付がジャブジャブ増えると不動産価格は上昇していきます。そしてリーマンショックのような信用収縮が起きると新規の不動産融資は一気に絞られ、不動産価格は下落します。不動産投資の失敗の原因は、「融資残高を増やせ」という金融機関側のミッションと、「自己資金をなるべく出したくない」という投資家側の利害関係が一致した結果に他なりません。投資用不動産を購入する際には一行だけでなく複数行の金融機関に融資打診をするケースが多いですが、ある金融機関だけが飛び抜けて高い融資額を提示してくるときは要注意です。他の銀行に比べて物件の担保評価が高すぎないか、LTVが高すぎないか、金利が高すぎないか、融資期間が長すぎないか、そのあたりを注意深く見比べてみてください。
1990年第前半の不動産バブル崩壊は、収益還元法という概念について無知であったことが原因で引き起こされました。物件から生み出される収益を無視した投機的な不動産融資が原因でわれわれは大きな損失を受けました。私たちはバブルの戦後処理のなかで収益還元法という概念を学ましたが、近年この収益還元法を過度に崇拝する傾向が強くなった気がしています。期待利回りはどんどん下がり続け、賃料・稼働率予測は楽観的。その結果、アプローチは違えどもバブル期のような不動産価格の上昇が顕著となってきました。
収益不動産はレバレッジをかけた金融商品であるという以前に、本来の不動産価値を見極めなければなりません。市場性と物件特性から見た適正賃料はいくらなのか、単年度の収支には出てこないリーシングコストや中長期の修繕コストはいくら必要なのかも知っておく必要があります。また、売却した時の手残りがいくらになるのかを把握することも重要なポイントです。金利が高く融資期間が長い融資は元本の返済が進みにくいので、売却時にキャピタルロスが発生してしまう場合にはローン残債が残ってしまう可能性があるからです。
もしもこのコラムをお読みくださっている中に、所有物件から当初予想していたキャッシュフローが得られないとか、このまま持ち続けて不動産価格がどうなるのか心配だ、という方がいらっしゃいましたら当社にご相談ください。コストカット方法や収益性の向上など、改善できるところは細かく改善のアドバイスをさせていただきます。また、不幸にも今すぐ売却することが損失を最小化する最善の方策であると判断される場合もあるかもしれません。そういった場合にも、現在の売却予想価格について根拠を示した書面でご報告し、売却方法についてアドバイスをさせていただきます。どうかお気軽にご一報くださればと思います。