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書を捨てよ、町へ出よう
モスクワ住宅事情編
会社の研修視察旅行でモスクワに行ってまいりました。
日本ではまだまだ馴染みの薄い都市のせいか、まわりの人たちからは「えっ!なんでロシアなんですか?」と驚かれます。たまたま当社のお取引先で旧ソ連圏専門の旅行代理店がありまして、以前から何度かロシア国内の経済や文化に関する興味深いお話を伺う機会がありました。そんなご縁で今回初めての訪露となった次第です。
社会主義国家から資本主義経済に移行して約30年が経過する中で、新生ロシアは石油・天然ガスなどの豊富な資源を背景とした急速な経済発展を遂げている一方で、貧富の差は世界120ヵ国中ナンバーワンとも言われています。また、戦争と支配が繰り返されてきた実に複雑な歴史を持つ国家でもあります。今回の旅のテーマは、首都モスクワに滞在することでロシアの人々の生活や文化に触れ、その空気を体験することでした。また、私たちの専門分野である不動産事情にもフォーカスしてまいりましたので、簡単ですがご報告させていただきます。
モスクワの概要
モスクワは言わずと知れたロシア連邦の首都で政治経済文化の中心地です。広さは2511平方キロメートルで人口は1,200万人を超えます。東京が広さ2188平方キロメートルの中に約1400万人近くがひしめいていることを考えると、モスクワは東京より少しだけ人口密度を薄めた感じと言えばよいでしょうか。東京の中心は皇居ですが、モスクワに置き換えるとそれはクレムリンということになります。クレムリンは中世ロシア時代に建設された外敵を防ぐための城塞で、現在も大統領府が置かれるなど政治の中枢です。このクレムリンの外側、半径15~18kmの外周にモスクワ大環状道路が走っていて、この内側がモスクワ市の中心市街地です。この環状道路の中に東京23区がちょうどすっぽり収まるかんじです。
市内の主要道路はどれも片側4車線以上あってとても広いのですが、とにかく自動車が多く渋滞がひどいです。私たちも実際にクルマで市内を移動しましたが、2キロメートル移動するのに30分くらい要するのは当たり前で本当にウンザリします。月曜日は比較的渋滞が緩和されるのですが、その理由がまた実にロシア的でぶっ飛んでいます。前日の日曜日に酒を飲み過ぎて二日酔いで運転できないお父さんが大量発生するからだそうです!
走っているクルマの中にはドイツ製の高級車が本当に多く、経済的に成功している人たちの層の厚さを感じます。一方で旧ソ連時代のポンコツ車を普通に乗っているいかにも頑固そうな老人もいて、見ていて飽きません。
自動車のストレスフルな交通事情に比べて地下鉄は実に快適です。数分おきに運行されており、運賃は距離に関係なく100円程度と実にリーズナブル。第二次大戦中の地下防空壕を利用して造られたのが始まりだそうですが、市内どこへ行くにも乗り換えが便利で利用客も多かったですね。
市内にはグム百貨店をはじめとする大型の商業施設がいくつかありますが、ロシア国内で生産されている商品はお酒や食料品を除いてほとんど販売されておらず、ヨーロッパ諸国の高級ブランド品が中心です。近年のルーブル安の影響もあってか地元の客は少なく、どの売り場もやや閑散とした印象でした。庶民の日常の買い物は郊外のロードサイド型ショッピングセンターが中心で、平日にもかかわらずどの店舗も賑わっていました。このあたりは日本とあまり変わらない光景ですが規模はすごいです。敷地5000坪クラスではまだまだ小さい方で、敷地3万坪クラスでやっと普通サイズという感じです。お客さんの回遊動線も日本に比べて非常に広く確保されており、大柄のロシア人でもゆったりとすれ違うことができます。
住宅の歴史
モスクワ市民の住まいは日本でいうところのマンション、いわゆる集合住宅が基本になります。もちろん防犯上の問題とか寒さ対策ということもあるでしょうが、大きな理由のひとつは第二次世界大戦で住宅を失った人々のためにフルシチョフ政権が集合住宅をたくさん建設して無償供与したことが発端であるとされています。当時の国営住宅のスペックはコンクリートパネル構造による簡易なもので、水回りは共同、一人当たり9㎡を基準とした5階建てが中心でした。4人家族で36㎡の計算ですから今の感覚では決してゆとりある住まいとは言えませんが、大戦で焼け出されて住む家の無い人々にとっては本当にありがたいものだったはずです。1991年の新生ロシアになって民間に払い下げられて今に至りますが、当時のフルシチョフ住宅は今でも市内あちこちに残っています。
このように街全体が集合住宅中心に発展してきた歴史的背景もあってか、庶民も富裕層もみんな集合住宅に住むことが当たり前になっています。私たちの滞在中、一戸建てはついに見かけることはありませんでした。
現在の住宅事情
続いてモスクワの最新住宅事情についてご報告します。
市内中心部ではすでに開発され尽くしていて新規の用地取得が困難であることから、一般的な住宅購買層は都心部を少し離れた地域で住宅を購入することになります。東京でいうと大田区や足立区といったところでしょうか。新築マンションの場合、4人家族向け64㎡前後が日本円で1000万円前半から1000万円台後半です。ただし、ロシアでは新築分譲マンションの場合、内装・設備を施工しないスケルトン状態で顧客に引き渡されるので、購入した後に追加工事が必要となる不便さがあります。その結果、すでに内装や設備が施されすぐに住める状態の中古マンションが人気です。中古住宅は新築スケルトン住戸に比べて価格も高く、1000万円台後半から2000万円台前半が中心です。
また、地元の人に聞いたところ現在の一般的な住宅ローン金利はなんと9%台とのこと。日本の低金利に比べると実に凄まじいレートです。以前はもっと金利が高くて12%台だったこともあるそうです。住宅購入者は皆、少しでも早く繰り上げ返済しようと必死に節約しているとのことでした。
富裕層はどこに住む?
一方で、市内中心部では不動産価格が高いこともさることながら、新規の用地取得が困難であるため取引の中心は中古マンションになります。中古マンションの中でも特に富裕層に人気なのがスターリン時代に建てられた建築物です。スターリン様式と呼ばれるこの歴史的建築物は、1930年代から1950年代にかけてアメリカ資本主義の象徴である摩天楼に対抗して建てられました。共産主義国家としてのプライドを象徴するもので、建物の中央から天に向かって伸びる尖塔がデザインのアイコンになっています。こういったスターリン様式の建築物は贅沢な間取りに高い天井高、奥行の深い窓が特徴です。都心部の利便性の高い立地とあいまって特に価値が高く、庶民にとっては憧れの存在でしかありません。
取引価格も㎡単価で@150万円以上、総額では軽く数億円を突破するようです。まさに日本で言うところのヴィンテージ億ションですね。
旅の後記として
出発前に旅行代理店のご担当者から「アメリカの経済制裁でアメックスカード使えませんよ。」とか、「そこらへんでテキトーにタクシーつかまえると身ぐるみ剥がされますよ。」とか、その他にもここでは書けないような驚愕アドバイスの数々をいただいておりましたが、おかげさまで大過なく全ての行程を終えることができました。日系不動産会社の現地駐在員の方とはスケジュールが合わずお目にかかれませんでしたが、モスクワ市内で学校を経営されている邦人実業家との素晴らしい出会いもあり、短期間ですがとても充実した時間を過ごすことができました。
この場をお借りしまして、今回の旅の細やかで完璧なコーディネートをしていただきました株式会社プロコ・エアサービスの三木社長と早坂執行役員に心より感謝申し上げます。